ホラーの皮を被ったハートウォーミング ドットホラーストーリー:レビュー

Switch

ホラーゲームは好きだけど、ついつい実況を見て済ましてしまうあなた!たまにはゲームをやってみませんか?夏の終わりにサクッとプレイできる一作を紹介します!

それがドットホラーストーリーだ!

ドットホラーストーリーってなんだ?

あなたの人生、お金より大事なものは何ですか?人間の倫理観を問う、サイコホラーアドベンチャーゲーム。主人公は、有名法律事務所の会社員である「プライス」。彼の野望は、事務所の共同経営者となり、そして巨万の富を得ることである。ある時、彼は、とあるマンションの住人たちを、家賃滞納や新たな高速道路の建設のため、といったさまざまな理由から、立ち退きを迫るという任務を受ける。優しい老人をはじめ、住民たちを追い詰める中で、次第に大きくなる「罪悪感」によって、彼の精神は病みはじめ、やがて「幻覚」を見るようになる・・・

マンション内を歩き周り、住人たちの部屋を訪問、途中アイテムを拾ったり、使用したりすることでパズルを解きながら、物語が進んでいきます。「プライス」の頭の中だけに見える「幻覚」が現実世界と混ざりあうことで、ありえない体験が展開されます。時に繰り広げられる、嫌悪感いっぱいのグロテスクなシーンも含め、いったい、何が現実で何が幻覚なのかを見極めなければなりません。このゲームは、「人生には、お金よりも大切な物があるのか?」をプレイヤーに問います。そして、ゲームが終了した後、この問いかけが、ずっとあなたの心に残ることになるでしょう。

(公式HPより)

ドットホラーストーリーは1と2からなり、2で物語が完結します。1だけプレイするか2までプレイするかでゲーム全体の印象が全く異なります。1ではプライスの苦悩と転落を、2では過去と再生を描いています。Steam、PS4、Switch、VITAで発売されています。僕はSwitch版をプレイしました。

普遍的なテーマを扱ったアドベンチャー

ドットホラーストーリーはタイトルの通り、ホラー寄りの演出が目立ちますが、1と2を合わせたテーマの本質は良心を持った人間の葛藤と再生の物語で、ヒューマンドラマというほうがジャンルとして近いと感じました。ホラーゲームとして1はグロテスク寄りの表現もありますが、2に至ってはそうした表現もなく、不気味だなーくらいの感覚です。ゲームプレイに対する緊迫感を持たせるものではなく、世界観の表現の手段の一つとしてホラー的演出が取り入れられたアドベンチャーゲームです。

競争社会で蹴落とされたものたちに対する仕打ち、法律というルールの中でなら何をしてもいいのか、そんな人間だれしもが生きていく中で当たり前に経験する事、答えが出ないから考えないようにしている事をプライスの苦悩と良心を通して問いかけてきます。自身の内面世界の葛藤が現実世界に侵食していく世界観は傑作として名高いサイレントヒル2も通じた点がありますが、シナリオやメタファーの巧みさでは残念ながら及ばない印象です。プレイ後の余韻としては好きなのですが、特に2で明かされるプライスのバックボーンや心理描写に驚きや琴線に触れる表現がなく、予定調和を感じてしまいました。

なお制作者のJesse Makkonen氏は個人でこのクオリティのゲームを作成しておられるようで、その点は圧巻と言わざるを得ません。個人製作のゲームの可能性を非常に感じさせてくれるクリエイターの1人であると思います。

(幻覚に悩まされるプライスは思わず小峠

ゲームプレイ

ゲームは2D横スクロールアドベンチャーで、プライスを操作し、アイテムを手に入れ、正しい場所で使うを繰り返してストーリーを進めることになります。一部ゲームオーバーというかやり直しさせられる演出がありますが、アクション要素などはなく、間違ったインタラクトをしても問題ないので、誰でもクリアすることが出来ます。味のある2Dグラフィックが特徴的で、ユーモアのある絵柄と不気味さが同居したホラー演出は記憶に残りやすいです。効果音やところどころに挿入されるBGMの使い方が上手く、プライスの歪んでいく精神を感じられます。何度もマップを往復する割に1は歩くのが遅いのが難点でしたが、2では改善されています。選択肢やエンディング分岐はありません。1.2ともにプレイ時間は2時間程度で、映画や短編小説を読む体験に近いです。

以下からはネタバレになります。気になる方はまた後でお会いしましょう。

大体時系列順のあらすじ(1+2)

プライスは両親に愛情深く育てられていた。友達は象の人形のスナウティー。不況の煽りを受け、両親が経営するコーヒーショップは閉店、生活レベルが維持できず、生まれ育った家も立ち退きを余儀なくされる。引っ越しの前の晩、両親は交通事故で亡くなった(タイミング的に自殺かもしれないが、プライスを愛した両親がプライス残し自殺をするというのは疑問が残る)。

プライスは両親の死を心の底深くに閉じ込めたまま、施設に引き取られた。施設ではスティーブという親友が出来た。不況の中、両親の苦境を目にしていたプライスは、無意識のうちに成功と富を追い求めるようになっていた。必死だった彼はスティーブとはいつの間にか疎遠になっていた。

有名法律事務所でのプライスの業務は法律を盾に、住民に立ち退きを迫るものだった。いつものように家賃滞納による立ち退きの勧告をするため、アパートの一室にプライスは訪れた。住人は夫に先立たれた老婦人であり、立ち退きを迫るプライスに猶予を懇願するも断られてしまう。彼女は思わず涙を見せてしまうが、プライスには恨み言ひとつ言わず、コーヒーを入れましょうかと優しさをみせる。しかし、家賃を払うお金もない彼女の家にはコーヒーも切れてしまっていた。プライスは罪悪感に押しつぶされそうになりながらもその場を去った。

法律としては何も問題はない、正しい業務を行っていると自分に言い聞かせ、望んでいた富を得ていく一方で、プライスは罪悪感と良心の呵責から幻覚を見るようになっていた。幻覚は巨大な象に押しつぶされそうになるものであったり、死んだ両親がプライスに自分の在り方を問いかけあるものであった。次第に現実と幻覚の境が曖昧になっていき、限界だとプライスが感じていたある日、彼が立ち退きを迫った優しい老人が介護施設で息を引き取ったことを知る。

これを機にプライスは彼女の墓の前で、彼女の死後の安息を願いつつ、退職を決意した。しかし運命は皮肉にも退職を決意したプライスの前に、野望であった共同経営者の椅子を用意した。ドス黒い欲望が心の中で渦巻いた。プライスの中で何かが折れる音がした。彼は自分を誤魔化し、仕事を続けたが長くはもたなかった。事務所をクビになり、富も失い、目の前にはかつての自分のように立ち退きを迫る人間がいる。

プライスは最期のアドバイスとして目の前の若者に自分のようにはなるなと言い残し、遺書を書いた。家族も友人も失ったプライスの遺書には自業自得だ、クソ野郎とだけ書かれた。そして全てを終わらせるためショットガンの引き金を引いた。

プライスは見たことのない場所にいた。呆然としていると一人の老人が話しかけてくる。自分はプライスの理性だと言い、どうやらここは死後の世界ではなくプライスの精神世界だとわかった。理性はプライスの死を止められるのは自分だけだと言い、この世界で希望を見つけろと道を示す。自身の心象風景を彷徨い、恐怖から隠れながら、強欲、苦悩、喪失、許し、愛と出会い内面と向き合っていく。最後にはかつての親友スティーブから勇気をもらい、心の奥底に閉じ込めた両親の死のトラウマと邂逅を果たす。

両親の死を受け入れ、過去を乗り越えたとき、これまで精神世界を彷徨ってきた自分自身が希望であることを思い出した。最後に見つかった希望はショットガンを引くプライスのもとに宿った。

プライスはもう死ぬことはできなかった。銃声を心配してプライスの元に隣人が駆けつけてくる。ジェンと名乗る彼女は先日引っ越して来たばかりだと言い、その姿はプライスが精神世界で見た愛の形をしていた。心配する彼女は話を聞くからコーヒーでもどうと喫茶店に誘ってくれた。プライスはコーヒーは大好きだと言い、彼女と共に外へ再び歩き出した。

考察

コーヒー

このゲームでは様々な場面でコーヒーが登場します。両親が経営していたのはコーヒーショップであり、プライスの大好物はコーヒーです。ゲーム序盤プライスは貧しく、水道の水が止まっているため、雨漏りした水でコーヒーを淹れます。罪悪感と引き換えにお金を手に入れてからは最新式のコーヒーメーカーを使います。コーヒーを淹れると、決まって両親の幻覚が現れます。コーヒーはプライスにとって両親を思い出させるものであり、依存の対象です。コーヒーと同じように様々な場面でトイレも見ることになりますが、プライスはいつもコーヒーを飲んでいるにもかかわらず、一度も用を足しません。自らの内に溜め込んでいくプライスの性格を表していると取るのは勘ぐりすぎでしょうか。

スナウティー

1では罪悪感と良心の呵責に押しつぶされそうになるという幻覚として象が出てきます。プライスがそうしたストレスを感じる瞬間に象のような鳴き声も聞こえてきます。1だけでは何故象なのかということがわかりませんが、2で幼き頃のプライスの大切な友達である人形が象のスナウティーであることがわかります。両親は最期にスナウティーを残していったため、両親の死の象徴としての一面もあると考えられます(喪失の登場場面で多数の象が現れます)。象の幻覚からプライスが逃げるというのは、幼き頃に持っていたプライスの優しさや良心から目を背ける事であり、罪悪感からくる自殺衝動からの逃避を表しているのかもしれません。

トラウマ

2で内面世界を彷徨うプライスをしばしば見つめる赤い瞳のようなものは、最終自身のトラウマであることが明かされます。この外見は見たままですが、両親の交通事故を連想させる血と車のタイヤでしょう。

プライスの人間性

そもそも何故プライスがここまで苦しむのかと言えば、彼自身が善良な人間だからにほかなりません。立ち退きを迫る際には決して横柄ではなく、極力住民の願いをくみ取ろうとします。罪悪感からくる罪滅ぼし的なポーズに留まらない行動力が彼にはあるのです。幼少期の彼は両親の深い愛に育まれ、絵や音楽を好んだインスピレーションに富んだ子供でした。誕生日のプレゼントは建築士セット#649です。2の心象風景では一部未来のような(あるいは望んだ未来)のような描写があり、そこでプライスは自宅の柵を打ち直し、力仕事も悪くないなと感慨深く思うシーンがあります。法律事務所での仕事は、終始悪のように描かれますが、実際は誰かがやらなければいけないことで、ただプライスの性格にはあっていなかったのです。

総括

ちょっとストーリーを嗜みたいけど、映画の気分じゃない、そんなときにひと味違ったゲーム体験はいかがでしょうか。

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